阪神・淡路大震災での住宅被害
阪神・淡路大震災で多くの住宅が倒壊しましたが,前号(「活断層と住宅被害」)でも述べましたように,住宅の倒壊は<地震の揺れ方>と<住宅の強さ・弱さ>という二つの要素の組み合わせです.地震の揺れについては,一つは,地盤性状が大きく関係するということを前回お話ししました.今回は,地震の揺れ方,すなわちどのような地震の「波」が住宅を壊すのかということについて見てみたいと思います.
地震の「波」はいろいろな波の混合体
「波」とは振動するものすべてが持つ性質です.そして自然界の「波」は,単純な一つの種類でなくいろいろな波の性質がまじりあったものとして現れます.例えば,光も波の一種ですが,この波の波長にはさまざまなものが混じり合っています.小学校の実験などで体験されたことがあると思いますが,自然の太陽の光をプリズムに当ててみると混合されていた光が「波長」のちがいによって赤から紫までのきれいな虹になって分かれるのを見ることができます.混合されていたものがプリズムによって分解されたのですね.
「波長」とは波が進むときの波の山から次の山までの長さです.進む速度が同じとすると,振動する回数が少ない場合は波長は長くなります.1分間にこの振動の山が起こる回数が「振動数」です.また,振動の山から次の山が来るまでの時間は「周期」と言います.結局,進む速度が同じとすると,「波長」も「振動数」も「周期」もすべて同じことを違う見方で言っているだけであることがわかります.次の図では,1分間に山が3回現れるような単純な振動を示しました.このとき,1分間の振動数は3,周期は20秒となります.この時の波が進む速度が1分間に12kmとすると波長は4kmとなります.このように振動するものを見るときには,その波が持っている性質として「波長」「振動数」「周期」を見ておくことが重要になってきます.
また,波がどれくらい揺れるのかを「変位量」といいます.これらがわかると,波の形が決まります.揺れる量は,変位量だけでなく,揺れる速さ(単位時間当たりの変位の量:「速度」),そしてその速度がどのように変化するのか(「加速度」)でも観測できます.グラフを見るときに,あらわしている量が「変位」なのか「速度」なのか「加速度」なのかは注意してみてください.
実際の地震の波は,上図のような単純な振動ではなく,さまざまな波の種類を含んだ混合帯であるということを理解しておくことが重要です.
住宅を壊す「波」
次の図は阪神・淡路大震災のときに海洋気象台で観測された地震波の「加速度」です.
兵庫県南部地震の記録(神戸海洋気象台)
EWとは東西方向の揺れ.NSは南北方向,UDは上下方向の揺れです.この地震波の性質を知るには太陽光をプリズムで分解したように波を分解しなければなりません.そこでいったん波を分解します.(この作業をスペクトル解析といいます)そうすると波は,さまざまな単純な波の総和として分解することができます.しかし,それだけでは,建物への影響がわかりにくいので,この地震の波でものを揺らしたらどうなるのかを計算機の中で仮想の計算をします.それを「応答計算」といいます.そうして出てきたものが「応答スペクトル」といわれるものです.
そして次の図は阪神・淡路大震災を起こした地震と,東日本大震災で観測された地震の速度応答スペクトルです.
二つの地震の速度応答スペクトル(東京大学地震研究所)
ここでは阪神・淡路大震災の波は鷹取と葺合で観測された波を示しています.横軸が周期,縦軸が応答速度です.どのような周期の時に,この地震で揺れた速度が大きいのかということがわかるようになっています.このグラフは対数グラフという形式でちょっと見なれませんが,この阪神・淡路大震災の二つの波は周期1~2秒にピークがあるのがわかります.一方,東日本大震災の方は,0.2~0.3秒くらいにピークがあります.この違いが,地震で木造住宅が壊れる差となって現れました.すなわち,周期1~2秒の波は木造住宅への影響が大きいのです.これまでの研究から,直下型地震では,この周期1秒くらいの波が出やすいことが指摘されています.熊本地震でも,周期1秒くらいの波が大きく現れました.
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