台風の風の向きと大阪湾の危険なコース
平成30年の8月から9月にかけて,台風20号,21号がたてつづけに大阪湾を襲いました.その結果,関西空港をはじめさまざまな被害が発生して,台風の脅威を実際に思い起こされたところです.
台風が引き起こす災害は,強風,高波,高潮,豪雨によるもの,そして,副次的な被害として塩害などがあります.もっとも基本的な災害は強風・高波・高潮によるものですが,これは,台風のコースと風の向きに関係しています.
台風は熱帯低気圧です.低気圧の風の方向は,北半球では中心に対して反時計回りです.その反対に,高気圧は時計回りに風が吹きます.このような台風の風の向きを知っていることは極めて大切です.図は,過去に大阪湾で大きな被害を出した3大台風のコースです.
大阪湾3大台風のコース(国土交通省近畿地方整備局資料)
大阪湾3大台風とは,室戸台風(1934年9月21日),ジェーン台風(1950年9月3日),そして第2室戸台風(1961年9月16日)で,すべて淡路島に沿って北上しています.このコースが大阪湾に大きな被害を与えるのはなぜでしょうか?
今,台風が次の図のように,四国方面からちょうど淡路島の真上にやってきたとします.台風の風の向きは中心から反時計周りの方向に風が吹いているので,大阪湾側では図のように南西の方から北東に向いて吹き込んできます(淡路島の西側では,反対に北からの風です).
この台風が図の矢印の方向に,すなわち淡路島に沿って北東に進んでいくとすると,この方向の風が大阪湾にどんどん吹き続けることになります.ところが,大阪湾はこの北東向きが楕円の長軸方向で,風が吹き続ける距離(吹送距離:フェッチともいいます)が最も長いため,波がどんどん大きくなっていきます.すなわち,この方向に風が吹き続けることで,湾内の波がどんどん高く成長し「高波」となります.同時に,この風で大量の海の水が運ばれてくるので,湾の奥では波だけでなく,海面そのものが高く(すなわち高潮に)なります.これを「吹き寄せ」といいます.海面は「吹き寄せ」以外にも,台風の中心が近づいてきて気圧が低くなることでも高くなります.これを「吸い上げ」と言っています.高潮はこの「吹き寄せ」と「吸い上げ」が合わさったものです.しかも,台風の進行方向の右側(この場合は大阪湾側)は,台風が移動する方向と風向きが一致するため,移動速度の分も風速に加算され,いっそう風速が強くなります.すなわち,台風がこのコースをとる時は,大阪湾に面した地域で猛烈な風が吹き,大きな波が押し寄せ,かつ高潮が発生するという最悪の事態になります.このような理由から,3大台風のように大阪湾の西側を北上してくる台風は,大阪湾の沿岸に大きな被害をもたらすとされているのです.
台風21号のコース
そして平成30年台風21号は,下図のように,まさにこの危険な台風たちと同じコースをたどったのでした.
この時の強風は関空で58.1m/sを記録するなど大阪湾各地で猛烈な風が吹き,また,大阪港や神戸港などでは過去最高の高潮偏差を観測するなど,記録的なものとなりました.(⇒「高潮のリテラシー」参照)
なお,2015年の水防法改正に伴い,「高潮により相当な損害を生ずるおそれがある海岸については、想定し得る最大規模の高潮浸水想定区域を指定・公表すること」となったため,大阪府や兵庫県がシミュレーションをやりなおしました.大阪府では,室戸台風コースに平行なコースを検証し,台風偏差が最大で2m~2.3m高くなりました.おどろくのは兵庫県でのシミュレーションで,室戸台風を平行移動したケース(この場合80km西にずれると最大)だけでなく下図のように瀬戸内海に平行して進む台風も検討し,このコースがもっとも高い高潮偏差となるケースがあることが報告されました.なお,兵庫県でも最大偏差は従来の想定よりも1.3~2.2m高くなりました.このように,1000年に1度というかなり稀に起こる災害の想定のハザードマップが公開されるようになりました.→「洪水最大規模のハザードマップとは何か」
〇「兵庫県大阪湾沿岸高潮浸水想定区域図について(尼崎市、西宮市、芦屋市、神戸市沿岸)説明資料」
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