阪神・淡路大震災後の活断層に対する市民の悩み

研究所代表の太田は阪神・淡路大震災後の当時は,神戸市役所で活断層の調査を担当していましたので,「活断層」に関する市民からの相談の電話はすべて私のところにつながれてきました.そのときの経験で忘れられない市民からの問い合わせがありました.震災から1年目の3月頃でした.「私の息子が神戸市の大学に入学できた.アパートを探していたら見つかったが,そこは新開地○丁目○○ですが,そこには活断層がありますか?」という電話での問い合わせです.大学に入学できたお母さんの喜びと,これから住むところへの不安が入り混じった質問でした.このお母さんに限らず,阪神・淡路大震災が直下の活断層での地震によるものということがわかってからは,世間では「活断層」への恐怖が満ちていたのでした.活断層は避けたい,というのが市民の偽らざる心理です.

活断層は避ければ安全か?

しかし,阪神・淡路大震災の被害の実態を見てみると,ことはそんなにも簡単でないことがわかります.まず,神戸の被害の現実を見てみましょう.例えば灘区の六甲道駅周辺の住宅被害の分布を見てみると,図のように,赤色の全壊と軽微な損壊の緑が縞状になっていて,単に断層線の上というような「線」で表される被害でないことがわかります.

また,次の図を見てください.これは,震源から断層までの距離とその地点での最大加速度(揺れ方)を示しています.

兵庫県南部地震の水平加速度の距離減衰(入倉)

 だいたい5kmくらいまでは最大加速度がほとんど変化していません.ということは,この範囲では揺れ方が活断層のすぐそばと同じということです.したがって,断層の上かそうでないかというような線で被害がわかれるということではないのです.このようなことから,私は,その電話の問い合わせに対して,地下に活断層があるかどうかで安全かどうかは判断できないこと,むしろ,まず,その息子さんが住む予定のアパートの安全性,すなわち,しっかりした建物かどうかを自分の目で確かめることが重要ですよ,と答えたのでした.

アメリカの活断層法をまねしたらとの提案

また,阪神大震災のあと,マスコミなどから,「アメリカのカリフォルニアには活断層法という法律があり,活断層から一定の距離を離さないと建物を建てられないようになっている.神戸でもそのような法律を作ったらよいのではないか」という提案がでてきました.この法律はカリフォルニア州のアルキスト・プリオロ・アクトといわれるもので1971年のサンフェルナンド地震での被害を受けて,1972年にできたものです.この法律では,指定された断層帯の15m以内は一定規模以上の建物を建てられないとなっています.これと同様の法律を作って建設を規制したらいいのでは,という提案ですが,実はカリフォルニアの断層帯は,陸上部ですがプレート境界にあるものなのです.トランスフォーム型のプレート境界にあるここでの地震は,内陸直下の活断層での地震と比べて起こる頻度がけた違いに多いです.この南カリフォルニアでは,70年間(1933年~2003年)にマグニチュード6以上の大きな地震が21回も起こっているのです.千年から数千年に一度地震が起こるとされている六甲断層帯とはまったく比較になりません.しかも,米国では,この法律での規制対象となる活断層を11000年以内に活動していることが地表で明瞭に確認できるものだけと限定して指定しています.このように,活断層が地下に隠れている可能性のある神戸とは条件がまったく異なります.さらに,震度7の帯の幅が1.8kmもあるような現実からすると,15mの規制というのは,被害軽減に対してあまり意味がないようにも思います.アメリカでやっているから日本でもやれという単純なことではなく,リスクと安全の科学的な評価と議論が必要であると思います.

→ 活断層と住宅被害