防災の施設は命を守ってくれるか?
日本は,防災という分野では先進国ですから,いろいろな災害に対して,かなり安全なように防災のための施設が作られてきました.しかし,それでも,2011年3月11日の大津波は防ぐことはできませんでした.その反省から,東日本大震災の後,国において,これからの堤防などの作り方をどのようにするかという検討がなされました.そして,その結論は,「堤防などの土木施設では千年に一度という非常にまれなレベルの巨大津波は防ぎきれないので,せいぜい,百数十年に一度くらいまでのレベルに対応できるように整備をすすめていく」ということになりました(「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」報告P.10,11).すなわち,東日本大震災のような巨大津波に対しては堤防などをアテにしてはいけないということなのです.
逃げ遅れて亡くなられた方々
そうすると,まずは,「逃げる」ということが重要になります.中央防災会議の「津波避難対策検討ワーキンググループ」が,東日本大震災で犠牲になられた方々の行動をヒアリングしました.助かった人の話は聞けますが,なくなった人の話は実はよくわかりませんので,生き残った方々が目撃した話を聞いたわけです.東日本大震災では揺れは大きかったので大地震が起こったことはほとんどの人がわかっていましたが,その後の個々の対応が生死の分かれみちとなりました.例えば,この場所は安全と思って逃げなかったとか,避難してからいったん自宅に戻ったとか,家族を待っていたとか,後片づけをしていたとかで多くの方が亡くなっています.また,車で避難し,渋滞に巻き込まれた,というケースもかなりあります.
車で逃げるのは安全か?
車で逃げるというのは,はたして安全でしょうか?私は,車に乗っていて津波に巻き込まれて九死に一生を得た二人の仙台の女性のお話を聞きました.一人は,車が浮き上がって流されたが,偶然,漂流物の上に乗り上げて助かったそうです.もう一人は,渋滞にあって津波に流されたが,同乗者が窓ガラスを割ってくれたので脱出できたとのことです.基本的に,流されてしまっていたわけですから,助かるかどうかは紙一重でした.車で避難する人たちは,どんどん高い方に逃げるわけですから,どうしてもそちらの方向に集中し,必ず渋滞に巻き込まれます.1台でも放置して逃げる人がいたら,そこから後ろの車は前には進めません.また,道路が地震で壊れたり,マンホールが液状化で浮き上がったりして通れなくなっていることも大いに考えられます.浸水しはじめた車は,水圧でドアは開けられませんし,電気系統が働かなければ窓を開けることもできません.基本的には,車で逃げるというのは,非常に危険が高いと考えるべきでしょう.
しかし,お年寄りや障害がある人が長い距離を歩いて避難するのは限界があるため,車での避難を有効にできないかと町ぐるみで訓練をしながら考えているところもあります.これが成功するためにはまちの人たちの理解と協力が不可欠となります.
安全な避難場所を確保する
そうは言っても,歩いて遠くまで逃げられないとか,避難する道がかなり遠回りで時間がかかるということもあります.そのために,確実に避難できる場所の確保や避難路を事前に用意しておくということが重要です.
仙台市宮城野区の中野小学校は,周辺の地域が,市のハザードマップでも危険と指摘されていたことから,学校が閉まっている時間でも外から屋上に避難できるようにという要望が住民から出されていて,東日本大震災の直前に改修したところでした.地震の後,周辺の住民は学校の屋上に避難しました.そこに屋上を洗うほどの津波が来ましたが,なんとか全員無事救出されました.事前の住民の取り組みが役に立ちました.
しかし,たとえば「鵜住居防災センターの悲劇」(防災情報新聞)で伝えられているように,安心だと思って避難した場所で津波に襲われてしまって亡くなられた例も報告されています.このように,いざという時の安全な避難場所の確保は生死を分けるのです.
そのため,南海トラフ地震による津波に備える各地域では今,避難先となるビルを探したり,それがない場合は避難タワーを建設したりする準備が進められています.
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