海岸平野での津波

平野部では,リアス(式)海岸の場合と異なり,津波の高さは陸地を進行していくにつれ急激に弱まります.そのため,リアス(式)海岸のような強い引き波がすべてを洗い流すようなこともありません.写真は,仙台平野での被災家屋の様子です.

 2011年3月21日仙台市荒浜 太田撮影

 写真の左側が海です.海側から流されてきた家屋が,頑丈な家にへばりついたままになっていて,引き波の力がほとんどなかったことがわかります.

 海岸平野部に位置する名取市(仙台市の南に隣接)での津波の高さの変化を示したのが次の図です.

名取市復興計画資料に太田が着色

 左の東部道路まで約3kmで,ここで津波はほぼゼロになりました.前回の「リアス海岸での津波」で示した陸前高田市での津波高の変化は,海岸線で約15m,約3km地点でも12~13m程度とぜんぜん低くならないのに対して,海岸平野での様子がまったくちがうことがわかります.

海岸部は津波に対して安全か

 このようなことから平野部はリアス(式)海岸と比べて安全だと考えられるかもしれません.しかし,国土交通省が行った調査では,平均的な死亡率は,リアス(式)海岸の方が高いものの,同じ津波の高さで比べてみると,平野部での死亡率の方がリアス(式)海岸部よりも高いということが報告されています.なぜでしょうか? まずは,仙台平野の写真を見てください.

仙台平野(アジア航測㈱提供の写真に地名を加筆)

 この写真は,仙台市の若林区から名取市にかけての斜め上からの航空写真です.撮影日は3月13日,津波から2日後で,まだ,津波の浸水が広く残っています.写真上の太平洋に面して砂浜があり,その背後には震災前はこんもりとしていた松林,それに平行して,貞山堀という運河があります.そこから西(写真の手前方向)には平坦な土地が開けています. この平野部は平坦・広大で,海岸から中央の六郷という集落にかかるまでで約4kmあり,この間で1mほどしか標高が高くなっていません.4kmという距離は,神戸なら須磨海岸から高取山頂までとほぼ同じですが,ここは平坦で,周りには高い建物も見えませんね.陸地での津波の速さが人間の足より早いことは「津波の速さ」でお話ししましたが,こういうところで津波に襲われたら,いったいどこに逃げたらよいのかと考えてしまいます. 写真中央を横切る高速道路の仙台東部道路は盛り土の構造で,津波はここでほぼ止まりました.この道路はこのあたりの数少ない高台で,高速道路という危険はありましたが,230 人がこの道路に避難して助かりました.(「多くの命を救った盛土構造の仙台東部道路」

冒険広場が命を救った

 写真の海岸沿いの中央部に冒険広場というところがありますが,ここは盛土した人工的な高台になっています.そこに,近くの井土という集落の家族3 人が避難してきました.たまたま,公園の管理スタッフ二人が残っていたので一緒にその高台まで逃げました.5 人が高台にたどりついてまもなく襲ってきた津波は,周囲を全部飲みこんで高台のすぐ下にまで迫ってきましたが,なんとか海抜14mの頂上にまでは達せず,自衛隊のヘリコプターに無事救出されました.

 このように,平野部では,安全なところに「逃げる」という行動がむつかしいのです.そのため,どのようにして安全なところに逃げるのか,あるいは,津波から逃げられる安全な場所をいかに確保するのか,が非常に重要になります.冒険広場での救出劇は,海岸平野の中の高台の重要性を痛感させます.なお,Youtubeで「津波 冒険広場」のことばで検索すると,ここでおこったことの証言や当時の映像も見ることができます.(たとえば https://www.youtube.com/watch?v=cR6ugCXUPws )

海岸平野部とリアス海岸での死亡率

 国土交通省で,平野部での津波とリアス海岸での津波での死亡率を比較した調査が行われています.(東日本大震災の津波被災現況調査結果(第2次報告))この中で次のような図が示されています.

 この図の左側がリアス海岸,右側が海岸平野部での死亡率ですが,全体としてはリアス海岸での平均死亡率の方が高いものの,同じ津波浸水深さで比べてみると,海岸平野部での死亡率が高いことが示されています.その理由は,さきほど述べたようなことに起因しているものと考えられます.

 → 津波から命を守るために

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