新・新耐震基準=2000年基準
前回の「震度と住宅の強さ」で紹介したように昭和56年に改正された「新耐震基準」は耐震性がすぐれていることが示されました.この基準は昭和53年の宮城県沖地震を検証してできたものでした.そして平成7年の阪神・淡路大震災の被害を検証してみると,この新耐震基準でもまだいくつか問題があることがわかってきました.具体的には耐震壁のバランスとか,地耐力に応じた基礎構造かどうかの検討がされていないことや結合部の構造など,いくつかの課題が指摘されました.
そこで,平成12年(2000年)に建築基準がさらに改正されました.それを「新・新耐震基準」とか「2000年基準」とよんでいます(本稿では新耐震基準との区別のために以下,「2000年基準」と表記します).この基準によって①地盤調査の規定が充実され ②地耐力に応じた基礎構造とすること ③耐震壁の配置バランスを考慮すること ④筋かい金物使用や柱頭柱脚接合金物使用の規定などが示されました.そして,平成28年4月に起こった熊本地震では,阪神地域での耐震に関する課題と2000年基準の重要性が浮き彫りになったのでした.
熊本地震の恐怖
平成28年4月14日の9時26分に熊本県を中心に一部で震度7となる激しい揺れが観測されましたが,実はそれが「前震」であり,その2日後の16日未明の1時25分に「本震」と言われる地震が発生したきわめて特異な地震でした.そして,これらの震源に近い場所では「震度7」を2日間の間に2度経験するということになり,「前震」でかろうじてもちこたえたものの本震により全壊したという住宅が数多く出現しました.
この地震で壊れた住宅を調査した国土技術政策総合研究所の報告では衝撃的なことが明らかにされました.それは,「新耐震基準」で建築された住宅が大きな被害を受けた事例が結構出ていること,そして,稀ですが,「2000年基準」で建築された住宅にも大きな被害があったということです.
この地震における益城町での調査において,被害が大きかった地域の木造建築物1955棟に対して,実に27%が大破以上の被害を受けたことがあきらかになりましたが,このうち,昭和56年の新耐震基準以前に作られた住宅は大破以上の被害物件の68%を占めています.その残りの新耐震基準以降,2000年基準以前の建物でも18%が大破以上の被害を受け,2000年基準以降の建物は6%が大破以上の被害を受けました.写真は,私が3か月後に熊本に行った際に撮った写真ですが,比較的新しいと思われる2軒の住宅が並んで全壊していました.
益城町での被害家屋(太田撮影 平成28年7月)
熊本地震調査から読み取ること
この地震の被害は,木造住宅の耐震を考えるうえで,非常に深刻な問題をいくつか投げかけました.まず,震度7という最大級の揺れが2日間で2度起こったということです.木造住宅は,大きな揺れを受けると,接合部が変形したり,壁に亀裂が入ったりして強度が低下します.その状態で2度目の震度7を受けたことが大きなダメージにつながったと考えられます.このことは,阪神・淡路大震災を経験した阪神淡路地域にとってはきわめて深刻な情報です.地震後建て替えなかった家は,22年前とはいえ,一度大きな揺れを受けてしまっています.現状で当時のダメージがどの程度回復しているのかを考えると不安です.
また,報告で「新耐震(56年基準のことです)の木造の倒壊のうち,筋かい端部がくぎ打ち程度の軽微な接合方法であったものが多く確認された」と指摘された接合部の問題も深刻です.阪神・淡路大震災でもちこたえた新耐震基準以降の住宅も,2000年以前の建築のものは,おそらくほとんどが接合金物がついていない接合方法の家がほとんどであると考えられます.写真は,耐震補強時に設置された接合金物の例です.
「土台と柱を固定する金物」と「柱と筋かいを固定する金物」が見えます.2000年基準では,このような金物の設置が義務付けられているのです.この写真は,耐震補強を施工した時のものです.前号(「震度と住宅の強さ」)で紹介した全壊率のグラフは,阪神・淡路大震災とその後の地震での被害率をもとに作成していますが,そのデータのもととなった建物はそれから約30年が経過しているのです.今,耐震補強の助成基準では「新耐震」以前の住宅が対象となっていますが,新耐震基準からすでに35年以上経過しておりそのような制約もあまり意味をなさないように思います.耐震化については,新耐震以降の建物も含めた対応を促進することが重要であることを熊本地震から学ばなければなりません.
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