台風2019年19号の豪雨で岩手県山田町では前の津波防潮堤が排水を阻害し,70戸以上が浸水しました.テレビや新聞でも話題になっています.(たとえば河北新報10月17日「台風19号で津波対策の堤防障害に」)

 そこでこの件について調べてみました.

 ここは,地形的に津波の被害を受けやすい土地です.

 そのため,明治三陸津波(1896年)で大きな被害を受け,一部は高台移転したのですが,十分な戸数が確保できず,昭和8年の昭和三陸津波(1933年)で再び大きな被害を受けたため高台にまちを整備し移転しました(「今回の津波における高地移転等を行った地域の状況 」(内閣府東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会第5回会合)の1頁および17頁を参照).しかし,結局,分家の増大などでそこから下にも民家が増え,2011年の東日本大震災の前には下にもたくさん民家がある状態となっていました.そこに大津波がやってきて下に広がったまちの部分は全滅しました.次に大震災前後の写真を同じ大きさで切り取ったものを示します.

   2010年8月Google Earth

   2011年3月Google Earth 高台移転した町も一部津波に流され津波がさらに奥まで這い上がったことがわかる

 このあたりの標高は13m以上ありますが,東日本大震災の後,その前に津波防災緑地を造成し,その前面は盛り上げて二線堤にするという計画が交付金事業として行われることになりました.

 ところが地形的に見てみると,この防災緑地で造成した二線堤(図の黄土色)は次図のように,ちょうど背後の谷からの水を遮断する形になっていて,今回,浸水する事態となったのでした.津波には一生懸命考えたけれど,背後からの雨水の処理を甘く見た結果での二次災害であったと思います.

 地理院地図から作成.高台のまちは背後の山の谷筋の出口に作られていて,雨があればすべて谷の水が町に押し寄せる地形であることがわかります.その前にできた緑地護岸が排水をせき止める形になっていて,排水処理が不完全であればまちが浸水します.