2019年の台風19号は,広い範囲で様々な種類の災害が発生しました.その中でも注目すべき現象として,内水氾濫を上げることができます.
 川や海に面した堤防で守られている側が「」,その反対側:すなわち川や海の水がある方が「」です.したがって,内水氾濫とは,川や海の水が溢れるのではなく,内側で水が溢れてくることをいいます.実は,日本での浸水災害のうちの半分近くが内水氾濫であり,特に都市部では,内水氾濫の方が圧倒的に多いということがわかっています.(都市部で顕在化する「内水氾濫」国土交通省

 2019年の台風19号での河川被害が国土交通省から報告されていますが,(令和元年台風第19号等による被害状況等について(第50報 2019年12月4日)),各地で内水氾濫が発生しました.例えば阿武隈川水系では,実に64か所で浸水被害が発生しましたが,そのうち内水氾濫は,44か所(69%)でした.

 家が川や海岸の近くにある場合で,下図のように川や海の水位の方が地表面よりも高い場合,川や海の水は内側に吹き出します.また,このような状態の場合は,降り続く雨や集まってくる水をまったく処理することができません.これが内水氾濫なのです.

 そして,この内水氾濫は,まわりよりも相対的に高さが低いところに集中して発生します.したがって,背後に斜面があるような場合はそれが全部集まってきてしまうのです.2019年台風19号での豪雨で浸水した宮城県丸森町役場周辺の浸水は,まさにこのような状況で発生しました.次の図は東北地方整備局の動画からのキャプチャです.

 次の図は,台風19号で浸水した町役場周辺の地図です.地理院地図の「起伏を示した地図」の上に水色で浸水区域を表示しています.上の写真と図の向きが違うので注意して下さい.

 北には阿武隈川の本流が流れ,南には新川という小さな支流が流れ,西には山があり,川と山に囲まれた三角形の地域です.このエリアにはまちの水を新川に排水するための水門があるのですが,台風19号の豪雨のために新川の水位が上がり,まちへの影響を避けるために水門を閉めたために,この三角形の部分の排水ができなくなり内水氾濫しました.浸水は河川が決壊したからではなかったのです.

 このような地形の場合,水は浸水エリアの雨水だけでなく,背後の山の斜面から流れ込む分もすべてこのエリアにたまります.すなわち下図のピンクの部分の水もここに溜まることになるのです.

 このような地形のため,ここはもともとは居住地でなく,田畑でした.今昔マップで昭和27年の地図との対比を下に示します.左側が昭和27年の地図です.赤い印が現在の町役場の位置です.このあたりは山裾の少し小高い部分しか家がないのがわかります.それが,右の地図のように今では街がしっかりできてしまいました.

 しかもこのような場所のど真ん中に移設した町役場は,軟弱地盤の上に作られていて,この三角形の地域の中でももっとも低い土地になってしまいました.下図は,町役場を中心に地理院地図の断面図機能で断面を表示したものです.

 その結果,災害時の司令塔であるべきはずの町役場は,まわりが浸水して孤立状態になり,ボートでしか行き来できなくなってしまい,仮設排水ポンプでの排水が4日間続いたのでした.(令和元年台風19号 出水の概要(仙台河川国道事務所 第2報)P10-13)また,東北地方整備局の特設サイトでは様々な情報があります.役場が浸水した状況のドローン映像も見ることができます.) 地域の脆弱性を理解したまちづくりという点では課題があったのではないかと考えます.