斜面は森林だけで守れるか?

森林と土砂対策の関係

山に植えられた樹木はどのように防災上の役に立つのでしょうか?樹木が根を張り,土壌としっかり一体化することで,表面の土砂は崩れにくくなります.そして,もう一つ重要なことは,表面の土壌に下草が生え,落ち葉や折れた小枝などが覆いかぶさっているような土壌があることです.もし,そのようなものがない裸の土の上に雨が降れば,雨粒が地表を流れ出します.流れ出した雨水は,最初は幾筋もの小さな溝を作り,やがて,それが,豪雨とともに表面の土砂を大量に削り出すようになります.しかし,しっかりした森林の地表では,下草が生え枯葉が覆いかぶさった「健全な土壌」が覆っているので,雨が降ると,雨水はこれらの被覆物を流れながら,大きな流れになる前に地中に浸み込んでいきます.

国土交通省では滋賀県の田上山で裸地と斜面に植栽をしたところとの土砂流出量の比較観察を長期間続けました.そうすると,植栽をした斜面からは,1年間で流出した土砂は1平方キロメートル当たりにわずか1立方メートルしかないことがわかりました.植栽をして健全な土壌がある場合は,雨が降ってもほとんど土砂が削り取られないのです.

このように,斜面の崩壊にとって森林の役割は,非常に重要です.しかも,樹木は自分で成長する生命体であるというところから,災害への粘り強い役割を期待することができます.近年,防災において「レジリエンス(Resilience)」ということが重要であると言われています.レジリエンスとは,もし災害にあってもその被害から早く回復することができる能力というような意味です.災害の被害をゼロにはできないので,その被害を少しでも少なくし,かつ早く回復できるためには,樹木のような生命体の力は重要です.

このように山の防災にとって森林の力は非常に重要ですが,実は,森林の力で守れるのは,表面の斜面崩壊だけです.表面の土壌部分よりも深いところで崩壊が起これば(これを「深層崩壊」といいます)残念ながら,森林の力では抵抗できないのです.そして,六甲山の「花崗岩」は,非常に風化しやすく,また,水で風化が進むため,過去の地震で岩盤に亀裂がいっぱいある六甲山では,非常に深くまで風化していて,深層崩壊が起こりやすいと言われています.深層崩壊を起こすと,斜面が崩れ,その土砂が雨水とともに「土石流」となって流れてしまいます.そのため,これらの被害を食い止めるためには,植林だけではだめで,「植栽を中心として土木工事を加味」した対策が不可欠なのです.

 

土砂災害を防ぐ施設

斜面が崩れやすいのは,急な角度で土砂がむき出しになった斜面です.このような斜面へは,植生を行いながら,かつ,山の地肌が崩れないような「山腹工」という工事が行われます.植生だけでは崩れてしまうので,コンクリート製の枠で囲んだり,急な斜面には,アンカーやコンクリートでの被覆をしたりして斜面を安定させます.また,急な渓流は川の流れで削られてしまいがちです.そのため,渓流があまり変化しないように「渓流保全工」といって,川底や岸が削られにくくなるような工事をします.

そのような対策をしても,土砂がどうしても谷に溜まってきます.そこで,それらの土砂が流れ出さないようにするもっとも重要な施設が「砂防堰堤(えんてい)」(「砂防ダム」ともいいます)です.これらの砂防施設は,昭和13年の阪神大水害の後,本格的に六甲山に整備されました.その後,表六甲で昭和42年に大きな水害が発生しましたが,それまでに整備した砂防施設が功を奏して降雨量の多さの割には非常に被害が小さくなりました.図は,昭和13年水害と42年水害の被害区域の比較です.

昭和13年水害と42年水害の被害区域
(国土交通省 六甲砂防事務所パンフレットから)

被害エリアが縮小しているのがわかります.例えば住吉川の五助堰堤は,昭和42年水害の前に完成していましたが,42年水害のときには,実に12万㎥の土砂を堰き止めました.これが機能していなければ,この大量の土砂が市街地を襲っていったかもしれないのです.また,平成26年8月に赤穂市付近に上陸した台風11号による豪雨のときも砂防堰堤は大量の土砂を捕捉し,まちを守りました.六甲山の砂防施設は,国,県,市の役割分担のもと,砂防堰堤670基,治山ダム1370基,急傾斜地対策事業210か所以上などが実施され,現在も整備が進んでいますが,それでも今現在の土砂整備率は6割とされています.災害から命と財産を守るためには,ハードに頼るだけでなく,土砂災害から命を守るさまざまな施策や対応が必要です.

 

リテラシーの部屋