阪神大水害-3
まちの中に流れてきた大量の水と岩石と土砂
阪神大水害では、前回お話ししましたように、実におびただしい量の水と岩石と土砂が市街地の中に流れてきました。これらの岩石や土砂は、どこから発生したのかというと、当然、その上流である六甲山からということになります。まず、大雨で六甲山の斜面が「がけ崩れ」を起こし、大量の土砂をその谷筋に落とします。例えば、住吉川の左岸側は当時は神戸市ではなく本山村になりますが、「本山村水禍録」という記録誌には、浸水した地域とともに当時の六甲山の斜面が崩れた場所が描かれています。 図の橙色で濃く塗られた箇所が六甲山での斜面崩壊の場所で、本山村に関係するものだけでおよそ100か所あります。これらの崩壊土砂が大量の水と共に一気に市街地に流れ出したのです。これが「土石流」であり、当時の人たちは「山津波」とも呼びました。
水害での岩石と土砂の堆積場所
平成26年8月の広島土砂災害でも注目されましたが、土石流は、その先頭に巨石がくるということが知られています。水と石と土砂が混じった流れの中で巨石が浮き上がり、それが先頭を切って流れ下るといわれています。そのため、上流部での土石流の破壊力はすさまじいものがあります。そして、巨石は、地面の勾配が緩くなるとそこで止まりますが、それから下流にも、土砂は溢れた水とともに運ばれていきます。
当時の状況を伝えた文献は、数多く残されていますが、都賀川の阪急電車の北側地区の写真では大量の巨石が流れていました。
(神戸文書館所蔵)
そこから少し下流側になると状況が変わってきます。住吉川右岸のJR(当時は省線とよばれていました)からすぐ北にある甲南小学校では、大水害から1年後に「甲南小学校水災記念誌」という冊子が発行されました。この冊子には、30数人の先生と生徒が大水害を思い出して作文を書いています。その文章を読むと当時のことが非常にありありと見えてきますが、このときに、先生や生徒がまず目にしたものは、氾濫した川の水でした。その水が、本当に数分で、背の高さくらいまで溢れ込んできました。先生は、おぼれかけた生徒を必死の思いで高いところに引き上げようと奮闘しました。ようやく、ほとんどの生徒を高いところに移動させたときには、実は、その水の下には大量の土が入ってきていて、はるか下にあるはずの地面がかなり高くなってしまっていたという記述があります。(甲南小学校水災記念誌「山つなみ」)このように、このときにやってきたのは「水」だけではなくて、大量の土砂を含んだ泥水だったのです。この時の作文でも、ここより上流の阪急沿いの「観音林」では、大きな石が流れてきていたとも表現されています。
土石流は斜面の勾配で変化する
土石流は,以上見てきたように斜面の勾配で,まず、扇状地の上部では、巨石が先頭となった土石流が流れてきて、地面の勾配がある程度ゆるくなると、巨石はそこに居座ってしまい、それから下流へは、土砂が水と共に運ばれていくというように変化します.防災科学技術研究所「防災基礎講座」ではそれを下図のように示しています.
そして,阪神大水害では,以上のようなことが神戸市内のいたるところで起こっていたのでした.
←六甲山と土砂災害のリテラシーに戻る
リテラシーの部屋
- 地震のリテラシー
- 津波のリテラシー
- 台風・豪雨のリテラシー
- 台風に襲われる日本
- 台風が生まれる季節と場所
- 大阪湾での危険な台風コース
- 高潮のリテラシー
- 雨の降り方を知る 1
- 雨の降り方を知る 2
- 雨水はどんどん集まってくる
- 平成30年豪雨災害 真備町の水害1
- 平成30年豪雨災害 真備町の水害2
- 平成30年豪雨災害 真備町の水害3
- 平成30年豪雨災害 真備町の水害から見えてくるもの
- 被災した真備町を訪問して 1
- 被災した真備町を訪問して 2
- 被災した真備町を訪問して 3
- 被災した真備町を訪問して 4
- 台風と豪雨 2011年台風12号を例に
- 2019年8月九州北部で豪雨 佐賀県大町での災害について
- 2019年8月九州北部豪雨 武雄JCTでの路面被害
- 津波対応のための防潮堤が排水を阻害して浸水:山田町田の浜
- 2019年台風19号と内水氾濫:丸森を例に
- 令和2年7月豪雨での球磨川渡地区での災害
- 裏切られた予測:千寿園の被災
- 洪水最大規模のハザードマップとは何か
- 六甲山と土砂災害のリテラシー
- 阪神大水害-1
- 阪神大水害-2
- 阪神大水害-3
- 水害を繰り返してきた六甲山
- 六甲山での土砂災害対策の歴史
- 阪神大水害以降の六甲山での取り組み
- 六甲山の斜面をどう守るのか
- 六甲山の植樹とその変化
- 斜面は森林だけで守れるか?
- 平成30年西日本豪雨での篠原台の災害-1
- 平成30年西日本豪雨での篠原台の災害-2
- 平成30年西日本豪雨での篠原台の災害-3
- 平成30年西日本豪雨での篠原台の災害-4
- 平成30年西日本豪雨での篠原台の災害-5
- 篠原台研究補論:阪神間モダニズムと住宅地開発
- 布引ハーブ園の災害の歴史1
- 布引ハーブ園の災害の歴史2
- 布引ハーブ園の災害史を歩く
- 土砂災害防止法ができた経緯
- 土砂災害からの避難
- レジリエントなまちをつくる
- 地図で防災
- 自分で作る防災マップ
- 自分で作る防災マップ 1 ハザードを知る
- 自分で作る防災マップ 2 ハザードマップの留意点
- 自分で作る防災マップ 3 危険な場所 役に立つ場所
- 自分で作る防災マップのテキスト
- Google Mapとリンクして使う 1
- Google Mapとリンクして使う 2
- Google Mapとリンクして使う 3
- Google Mapとリンクして使う4 kmlファイルの表示
- 手書きのマップをデジタル化する 1
- 手書きのマップをデジタル化する 2
- 手書きのマップをデジタル化する 3
- Google Mapで場所を共有する
- 「わが家のぼうさいマップ」を作ろう
- 災害に備える
- 阪神・淡路大震災関係資料
- 災害からの復興