日ごろ使っていないものは災害時に使えない
阪神・淡路大震災のあと,災害に強いまちにするためにはどうしたらよいか,について,神戸市復興計画検討委員会で真剣な議論がなされました.そのときに強調されたことの一つが,日ごろ使っていないものは,災害の時に使えない,ということでした.復興計画策定に先立って復興の基本的な事項を整理した神戸市復興計画ガイドラインでは「日常性と災害時の調和」という表現でそのことをあらわしています.すなわち,最も役に立つのは,いつ起こるかわからない災害にだけ使えるものではなく,いつも使っているものを災害の時にも使えるように工夫することである,ということでした.このような考え方からいくつかの復興施策が生まれましたが,その一つが「防災福祉コミュニティ」でした.よくある,防災だけに特化した住民組織とするのではなく,普段の住民の福祉などの活動をも視野に入れたものにしようとの考えです.
防災福祉コミュニティの誕生と現在
このような発想から誕生することになった神戸市の防災福祉コミュニティは,当時,市が全小学校区に整備をすすめていた「地域福祉センター」を拠点に展開することになりました.これにより,日常的な市民の活動と一体となった防災の活動が展開できると考えたからです.そして,組織の名前にも「防災」だけでなく「福祉」を入れることで,日常的な地域活動との一体性が表現されたのでした.
防災福祉コミュニティは,震災後各地区で順次設立され,今現在,全市の191地区で活動が展開されています.その活動のモデルは,世界的にも有名になり,インドネシアでも「BOKOMI」という組織が設立され,神戸市消防局がその支援をおこなっています.
ジュニアチームの活動
防災福祉コミュニティの活動は,地域で様々な特徴ある活動が展開されていますが,私が注目しているのは,小中学生たちの「ジュニアチーム」の活動です.
その一つの「いぶきジュニアチーム」の活動を紹介しましょう.これが結成された井吹台というところは,平成5年にまち開きが行われた神戸市で最も新しいニュータウンで,地域福祉センターは平成11年10月にでき,その時に同時に防災福祉コミュニティもできました.ここでのジュニアチームの誕生は平成14年で,神戸市の中でも,非常に早い段階でした.当時は「防災ジュニアチーム」という名前で活動を開始しました.開始当時は,まだ,どのようなものかもわからないため,チームに入る子供たちの人数は,3人でのスタートでした.設立当時をふりかえり坂本津留代さん(井吹台自治会連合会長)は,「当時,中央区のある地域で防災ジュニアチームができたことを教えてもらった.子供たちには,勉強だけでなく,いろいろな特性がある.学校での勉強が苦手でも地域の活動ならできるという子供たちもいる.そういう子供たちが地域で活動できる場を作りたい.」という思いで結成したとのことです.翌年にはジュニアチーム通信を創刊するなど,活動が広がり,一時期は100名ものメンバーになったこともあったそうです.(平成27年度末時点 小学生51人,中学生10人)
その活動は,途中から防災だけでなく,地域の幅広い活動全般にかかわるようになり,組織の名称も「防災ジュニアチーム」から「防災」がはずれて「ジュニアチーム」となりました.それは,「地域の活動は防災訓練だけではない.もっと地域のことを広く学ぶ活動として広げていくことが必要.」との思いから,とのことです.井吹台での活動の特徴として,坂本会長は,子供たち自身の活動をサポートする「地域(父兄を含む)」と,「小中学校」,「行政(区役所,消防や警察)」の3者のサポート体制が重要であると指摘しています.そしてジュニアチームの防災活動については①自分の命を守れるように②大人の地域活動を学ぶ③人の役に立つ活動,の3点を重視しているとのことでした.この活動を経験した子供たちは,卒業後も地域に強い愛着と関心を持ってくれているとのことです.
このような井吹台地区の事例は,震災直後の「災害時と日常」の議論を彷彿とさせます.名称から「防災」が外れたジュニアチームの経緯に象徴されるように,日常の地域活動と密接にからみあった防災の活動が重要であることを今一度考えてみることは,各地域の「防コミ」活動にとって大いにヒントになることだと思います.写真は,平成28年1月に開催された「災害メモリアルアクションKOBE」で,明石高専生が開発した防災ゲームのトライアルに協力するいぶきジュニアチームの様子です.
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