災害への対応について、職場や地域、学校などで対応策を考える際にワークショップという手法はよく使うと思います。もっともよく使われているのはKJ法という手法で、文化人類学者の川喜多二郎先生が提唱されたもので、ブレーンストーミングしながら、アイデアや意見を分類整理して答を導くものです。
みんなで意見を作り上げていく際に極めて有効ですが、むつかしいこともあります。実は、この方法の最初の関門は「問い」です。ある「問い」に対して意見を出していくのですが、この「問い」が適切でなければ議論が深まりません。
AB法とは
今回提案するAB法は、災害への備えを考えていくうえで、非常に有効なので紹介します。
「AfterよりもBefore」これは矢守克也先生(京都大学)に教えていただいた言葉です。災害の後(After)、いろいろ対応することはもちろん重要なのですが、もっと重要なのは災害が起こる前(Before)にどのような準備をしているかです。この言葉の力は大きくて、いろいろなことを考えるための指針となると思います。
そこでこの力強い言葉を活用して開発したワークショップ手法がAB法です。この名前はAfterのAとBeforeのBから名付けましたが、有名なKJ法は川喜多二郎先生のイニシャルでかっこいいのですが、こちらの方は安直な感じが否めません。
AB法では、最初に「After (災害の後)にどのような困ったことが具体的に起こるのか」を話し合って列挙します。そのあと、その項目ごとに、「ではBefore(災害にあう前)に何を備えたらよいのか」をみんなで考えます。こうすることで明確な「問い」をたてることができます。ワークショップでの「問い」は重要で、なまはんかな「問い」では、議論がうまく展開できない場合があります。AB法を使うと、「問い」に明快な軸を与え、議論が発散したりしないようにすることが可能になります。
その際、考えるヒントとして以下の5つの質問をあわせて提示します。
それは、「組織の危機管理入門 リスクにどう立ち向かえばいいのか」(丸善出版 林春男他著)から借用した次の5つの質問です。
①何を目標とするのか?
②予想される問題は何か?
③その原因は何か?
④問題発生を回避する対策は何か?
⑤問題が発生したときの影響を最小限にする方法は何か?
では順を追って説明します。
AB法ワークショップのすすめ方
1)その成果を出す目標は何かを明確にします
目標が明確でないと議論が発散します。特に意識しておきたいのが、ステークホルダーです。だれがその問題のステークホルダーなのか?そして、そのステークホルダー自身がその目標を設定することが重要です。特に、一番重要なステークホルダーは自分自身です。みんなの意見を聞きながら目標を設定しましょう。
その際、時間的な枠組み(短期なのか、中期なのか)や、地域の広がり(家庭レベル、近隣数軒レベル、小学校区レベルなど)、関わる人(ステークホルダー)の範囲などを考慮すると目標の設定がしやすいです。
なお、目標の範囲などの枠組みに細かく気を使って、意見が出てくるのを阻害させないように注意してください。あくまでも活発な意見が出る方が重要です。少々逸脱があっても、AB法の力でまとめられると信じて、柔軟なファシリテートに心がけてください。
2)Afterのイメージ化
After(災害の後)どのようなことが起こるのかを想像し、イメージ化します。
災害の後、設定した問題に対して、どのようなことが起こるのかをみんなでイメージし、書き出します。ブレーンストーミング的にポストイットに書き出していって、それを整理し共有します。5つの質問の②にあたります。
3)原因を探る
Beforeを考える前に、「その原因は何か?」を話し合って、これかな?と思いそうな項目を出しておきます。5つの質問の③です。ただし、これは④⑤の対応策と密接に関係しているので、結論を出す必要はありません。議論の中でまた変わるかもしれないので、とりあえず、②の項目の共有をする中で、原因の候補を話し合っておくくらいでとどめます。
4)Before(準備しておくべきこと)を見つける
最後にどのような準備をしたら、それが回避できるのか、あるいは影響を少なくできるのか、最初に掲げた目標に沿って意見を出し合います。5つの質問の④と⑤です。
意見を引き出すには、最初から一つ一つ議論するのではなく、各々の意見をポストイットに書き出して、それを整理、分類してから議論することがゴールに到着する近道です。また、参加者が、自分がステークホルダーの一員であるという意識をもって議論することが重要です。
「神戸防災のつどい2023セミナー」で実際に行なった事例の報告も参考にしてください。このセミナーでの進行用パワーポイントpdfも参考にしてください。