熱海の土石流の元となった上部の斜面崩壊地について,熱い議論が巻き起こっています.研究者の塩坂先生から,すぐ上部の地形改変で本来東に流れるべき部分の水が被災渓流に流れ込んだという主張があり,(静岡新聞「道路影響、集水面積6倍か」2021年7月9日),静岡県の難波副知事は,そんなことはないと反論しています.(静岡新聞「土砂分析、原因究明へ」2021年7月10日)

赤色立体地図

 そこでこれに関する議論を整理するために,土石流が発生した上流部の地形についていくつかの見える化を試みます.アジア航測の千葉達朗先生が,高精度の赤色立体地図を提供してくれています.このあたりの地形がこれで非常によくわかります.
 この立体赤色図上に今回のテーマを整理してみました.

 地形的には図の緑の枠のエリアが上部の集水域のように見えています.ほかは別の谷に排水される地形です.しかし,黄色の矢印のような流れ込みがあったのか?これが今回のテーマです.

3D画像で見る

 おおまかに見るために,地理院地図で3D画像を作ってみました.作成方法を紹介します.

1,地理院地図の土石流第3報のkmlファイル(dosekiryuu-3.kml)をダウンロードします.

2.地理院地図をひらき,前述の第3報のkmlファイルをドロップします.

3.左上の「地図アイコン」を開き→「標高・土地の凸凹」→「赤色立体地図」と進みます.「OK]を押すと赤色立体地図が開きます.

4,右上の「ツール」→「3D」で「大」を選択すると3D画面が生成されます.

ここでは土石流の谷の方向とその東の谷の方向を見てみます.

土石流が発生した谷を正面に見た図

その東の谷を正面に見た図

 東の谷はずいぶん大きいことがわかりますね.

Google Earthで断面を見てみる

 この二つの図では,まだどれくらい災害が発生した谷に雨水が流れ込むのかよくわかりません.そこでGoogle Earthで断面図を取ってみます.(作り方については「Google Earthで断面図を作る方法」を参照してください.)

 パスを2つ作りました.「南北方向に近い崩壊した斜面に向かうパス」と「東西方向に近い東の谷に向かうパス」です.それぞれkmlファイルをダウンロードできますのでGoogle Earthにドロップしてみてください.

 まず,南北方向で崩壊場所近くの断面を見てみます..

 近接した断面図では,乗り越えてくるかどうかは微妙ですね.しかし,もう少し大きく見た図では下図のようになります.

 こうして見ると,水の流れに勢いがあった場合は,少々の高みも乗り越えそうです.

一方で,東の谷の方に向けた断面(黄色い断面線)は下図のようになります.南北の谷に向けたよりも急です.(縮尺が図によって違いますので注意してください.)

地理院地図で断面を比較する

 地理院地図でも断面図が作成できます.右上の「ツール」→「断面図」で「ファイルを選択」で先ほどのパスのkmlファイルを選択します.(いったんパスを表示してから,パスの上で始点と終点を指定してもいいです)

そうすると,パスの間の断面図が自動的に生成されます.

2方向のパスそれぞれで断面図を作成しました.1枚目が南北方向,2枚目が東西方向です.断面図の縦横比の倍率は選べます.

南北方向断面図

東西方向断面図

 地理院地図の断面図は「グラフを保存」で,距離と高さのデータをcsvファイルとして入手できます.そこでこのデータを二つ並べてエクセルで「散布図」を作成しました.

 こうして比べてみると,東西方向の方がやや勾配が急であることがよくわかります.

 このような条件下で,いったい,どれくらいの雨水が発災した谷に流れたのかを明らかにする研究が必要です.また,土石流の要因には,表面水だけでなく地下水も大いに影響があります.さらに,谷の元地盤の地質や盛土されたとされるものの量や種類,盛土の施工方法なども解明されなければなりません.静岡県は,発災場所の前後の地形データを「静岡県熱海市土石流範囲3Dプリンタ用データ」として公開しています.これらも使って,大いに研究を発展させ,今回の災害のなぞが解明されることを期待します.

→ 令和3年7月大雨の熱海の土石流を地図で見る
→ 熱海の土石流を地理院地図の2画面で見る
→ 自分で作る防災マップ