コロナで学ぶエクセル6 実効再生産数Rtの計算
感染症において,再生産数(Reproduction Numbers)という数字があります.感染は人から人に指数関数的に増大するので,この数字に関心が集まっています.(「コロナで学ぶエクセル 3 世界のデータを見る」の2.再生産数の項を参照してください)
再生産数には,「基本再生産数」と「実効再生産数」があります.「基本再生産数」とは,「ある感染者がその感染症の免疫をまったく持たない人の集団に入ったとき,感染力を失うまでに平均で何人を直接感染させるか」という数字で,ウイルスの感染させる力の強さを表わしています.新型コロナでは,1人の感染者は平均で直接1.4~2.5人を感染させるとのWHO(世界保健機関)の暫定的評価があります(すなわち基本再生産数1.4~2.5).これは8~10の水痘(水ぼうそう)や16~21の麻疹(はしか)と比べて低く,インフルエンザ(2~3)並みと言えます.基本再生産数はわれわれが何も対策を取らなかった場合の数値で,これに対して,手洗いやうがい,人々の接触削減といった対策が取られれば,1人の感染者が実際に直接感染させる人数が減ります.こうした対策が取られた実際の再生産数のことを実効再生産数といいます.(「科学が示す「コロナ長期化」という確実な将来」(東洋経済ONLINE 4月22日)参照)
京都大学の山中伸弥先生が,ご自身のホームページで「実効再生産数(Rt)算出を試みました」(この記事は現在では存在しません。(2021.12.23.注記))という記事を書かれています.この中でCoriらの方法により計算できるエクセルシートのことを紹介してくれています.そこでそのページを開いてみると,中段に,「We provide a Microsoft Excel spreadsheet (available at http://tools.epidemiology.net/EpiEstim.xls) that implements the estimation method described above. Documentation on how to use the Microsoft Excel file is provided in Supplementary Data. 」という箇所がありますので,そこのリンクからエクセルシートを入手できます.計算の際の日数や標準偏差については,山中先生のページに「Biらの論文からSerial intervalの平均を6.3日、標準偏差を4.2日と仮定」とありますのでその数字を借用することで一応計算は可能です.(Supplementary DataのP.20以降にエクセルシートを使った計算法の説明があります)
一方,東洋経済ONLINEでは「新型コロナウイルス国内感染の状況」というサイトで日々情報を公開してくれていますが,5月20日から,実効再生産数を算出して公開しています.(「東洋経済が新型コロナ「実効再生産数」を公開」)
そこで紹介されている実効再生産数を計算する式は北海道大学(注:この記事の投稿時点.現在は京都大学)の西浦博教授の監修による簡易式で,
実効再生産数=(直近7日間の新規陽性者数/その前の7日間の新規陽性者数)^(平均世代時間/報告間隔)
という非常に簡単な式です.そこで東洋経済ONLINEから全国のCSVデータをダウンロードして,算出してみると次のグラフのようになりました.(東洋経済では,平均世代時間は5日,報告時間は7日としています.)
5月24日の東洋経済ONLINEのグラフは下図で,まったく同じであることが検証されました.
では,これをCoriのエクセルでやってみるとどうなるのか,についても検証してみました.それを比較したものが次の図です.
4月4日くらいまでの値が大きく違いますが,それ以降はほぼ同じであることがわかります.日々感染者数の推移(7日平均値)は下図です.
これを見ると,3月末から4月の初めまでは急激に増加している時期ですね.このことから,感染者数が大きく増減している場合はこの二つの方法はずれが出るのかもしれません.いずれにしても,現状はどちらの方法も1を切っているようなので,新型コロナ制圧に向けて,やる気を出させてくれるデータだと思います.
※作業したエクセルはここからダウンロードできます.
なお,2020年5月12日の日本科学技術ジャーナリスト会議での西浦博先生の実効再生産数についての講義をニコニコ動画で見ることができます.また,その時のパワーポイント(pdf)は西浦先生のGitHUBからダウンロードできます.
西浦方式が、なぜ「実効再生産数」といえるのか、合理的な説明が知りたい。
コメントをいただいたのに気が付くのが遅れました.申し訳ありません.
東洋経済の説明が以下のリンクにあります.
https://toyokeizai.net/articles/-/351826?page=3
簡易式ですが検証したようにそれなりの精度があるように思います.
殆ど分からない不思議な数をまとめて頂き、有難うございます。
それでも。やはり、理解できません。
一年前の記事ですが、
まだ答えて頂けるでしょうか?
1.
(直近7日間の新規陽性者数/その前の7日間の新規陽性者数)
これは、分かります。
増倍率です。
そして、
Y(x)/Y(x-7)
を7日で割れば
一日当たりの増倍率が出て来ます。
例えば、7日で128倍になれば、(Y(x)/Y(x-7)=128)
毎日2倍。になる。
そこまでは理解できます。
まだ、一日当たりの増倍率(/日)です。
どうやって、再生産数に変換するのかが
理解できません。
(平均世代時間/報告間隔)
これは、何でしょうか?
報告間隔とは、何で、何日でしょうか?
平均世代時間とは、何のことで、何時間でしょうか?
この比は、何を意味するのでしょうか?
この不明な数値のべき乗をすると
何故、
一人が感染を広げた人数
が計算できるのでしょうか?
2.
今や、全国で、
濃厚接触者は全部調査しています。
一人が感染を広げた人数
は相当な精度で分かっているハズです。
実効再生産数=(直近7日間の新規陽性者数/その前の7日間の新規陽性者数)^(平均世代時間/報告間隔)
で計算する値
と一致するでしょうか?
どれくらい、違うでしょうか?
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以上、よろしくご教示お願いします。
富江さま
数式については西浦先生のものを紹介していますが,その理論については私にはよくわかりません.申し訳ありません.
平均世代時間は5日,報告時間は7日という数字を東洋経済が紹介していたので,それで計算してみました.
2についてですが,実効再生産数は,とらえる地域の広さでも変わってくるし,また,ピークの前後なのか真っ最中なのかでもかわります.
例えば今,緊急事態宣言中ですが,関西はいったん小康状態になっているので,1を切ります.
あくまでもその時点の切り口でのベクトルを表わしている,という風に理解しています.
実効再生産数が1以下だからもう大丈夫という数字ではないことは,この間の何回もの波の襲来で,実感しています.
以上,感想のようなことで申し訳ありません.