台湾雑感-COVID-19禍中の自助・共助・公助

 すっかりご無沙汰している間に台湾に引っ越した佐々木孝子です。台湾研究者として長年足しげく通い、生活もよく知っているつもりでしたが、住んでみて、夏は熱気と湿気、冬はけっこう寒いのに思った以上に悩まされました。ちなみに春と秋は、からりと晴れ渡った日はとても過ごしやすく、雨が降ると「蒸し寒く」て風邪をひきます。最近ようやく慣れてきたところです。

 さて今日は、COVID-19対策の「優等生」とされている台湾で、個人・地域・政府のそれぞれで実際どのような対策が実施されているのか、報告したいと思います。

 台湾での対策について、まず気が付くのは各警戒レベルの個人での対応が明文化され、感染に関わる情報伝達の透明性が高いことです。日本でも報道されたように、台湾で域内感染者数が急増し(図1)、政府は、5月11日に第2級、15日に台北市と新北市を第3級、19日には、台湾全土で28日まで第3級に引き上げと一気に警戒レベルを高めました。

(Google検索により、https://github.com/CSSEGISandData/COVID-19から転載。合計感染者数には感染確定者と推定感染者を含む。表示されているのは陽性を示した検査数であり、陽性症例とは異なる(Googleヘルプセンター))

 こうした警戒レベルの内容は表1のように規定されています。

 第3級の今は、基本的に巣ごもり生活で、レストラン等は持ち帰りサービスのみのところが多く、フードデリバリーのバイクもよく見かけます。家で料理する人が多いからか、或いは物流が滞っているのか、スーパーの生鮮コーナーはいつもより品数が少なくなっています。大学の講義はオンラインです。大学やスーパー等では入り口で一人ずつ体温を測定します。実名登録が必須で、近所のコンビニエンスストアでも入り口で記帳するか、スマホをかざしてピッとやります。「今、日本人のササキさんがコンビニ〇〇店で45元のカフェオレを買った。あっ、早速飲んでるゾ。」等と声高に報告されているようで何となく落ち着かない気分になりますが、記入用紙やアプリには「COVID-19対応以外の目的には使用しない」と明記されています。実名登録は、感染者の立ち寄り場所の特定に使われ、特設サイトで公開されていて(図2)、知らないうちに接触者になっていないか自分で確かめることができます。

https://www.ftvnews.com.tw/topics/COVID-19/index.html#item-10より転載

 台湾では「誰でも感染する可能性があるのだから、自分でも、みんなでも気をつけよう」という気運が高いように思われます。たとえば、台湾人はよくFacebookやLINEで「地域グループ」を作り、様々な地元のニュースを共有しています。警戒レベル引き上げについても、県内の感染者立ち寄り情報等とセットで地元のニュースとしてすぐさま共有されましたが、「みんなで感染が広がらないようにしよう」という呼びかけが添えられていました。私の知り合いは、「警戒レベルが4級になったら完全に家にこもらないといけないの、嫌じゃない?だからみんな感染が広がらないように規定を守るんだよ」と言います。政府が定めたCOVID-19に対する個人対応は国民の支持を得ているようです。

 個人を対象とする規定がある一方、政府は地域(村等の最小行政単位)を感染対策の重要な単位としています。村であれば、COVID-19対策の責任者は村長で、帰国者の自主隔離の世話人や地域内の消毒をします。台湾でも、警戒下で買い占め、偽情報、マスクの着用有無での争い等が起こらないことはなく、テレビでも放映されます。そうした中、感染者に関するうわさが広まる早さを懸念し、村長がうわさの真偽を一つ一つ確認して確実に火消しをすることで村民の不安を解消したという報告がありました。村の制度が住民の生活基盤として機能していることが窺えます。

 政府は、衛生福利部疾病管制署(台湾CDC)は警戒レベル第3級を発布する際、プレスリリースで、

  • 地方において資源やマンパワーが不足する事情があれば、中央流行疫情指揮センターが全力で調整・協力する。
  • 実施状況の確認、偽情報への反駁を行う。
  • 医療キャパシティは十分であり、人々は心配する必要はない。

等を明確に伝えています。もちろんCOVID-19に対するすべての対応が有効に働いているわけではありませんが(例えば在台外国人には情報が伝わりにくい)、政府の役割を果たそうとする姿勢がみえます。

 日本では政府により強権的な対応を望む声もあがっているようですが、そうした議論も政府と国民の間の信頼関係があってのことでしょう。また、“やらされる”一方の自粛では疲弊がより募るのではないでしょうか。COVID-19禍は、これはもう一種の大規模災害だと思います。「優等生」だった台湾ですら緊張感が高まる状況で本当に大変だけれども、自助・共助・公助とは何を言うのか、今、改めてその中身を考えてみるべきではないかと思ったことです。

注1 村長は普通選挙で選ばれるが、日本と異なり無給(月額約17万円の事務費が支給される)で専従でもなく、筆者の感覚としては町内会長に近い役まわりである。村長と、政府から派遣される「村幹事」がコンビで村の運営を行う。

注2 李旉昕 (2021):台湾の市民社会の力、斎藤容子、リズ・マリ、李旉昕、石原凌河著「COVID-19 各国の政策と市民ボランティア イタリア・アメリカ・台湾・ニュージーランド」、K. G. りぶれっと、一般社団法人大学出版部協会,pp. 75-94

注3 公益財団法人日本台湾交流協会高雄事務所、台湾衛生福利部疾病管制署プレスリリース(仮訳)より引用

 

 

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